年金問題等に起因する将来不安や少ない手元からでも投資に算入しやすくなるような様々な政府施策や企業努力などにより、投資へのハードルは年々下がる一方です。
しかし投資主にとって切り離せない、どうしたってついてまわる厄介者(笑)が、確定申告です。
確定申告が面倒だから投資はしないという方もかなりの数いらっしゃるのではないでしょうか。
NISA?特定口座?
聞いたことはあるけどよくわからないよという方も多いでしょう。
今はうまくすれば確定申告の手間が省ける方法もいくつかあります。
少しややこしいですが一度理解してしまえばそう難しくありません。
一緒に見ていきましょう。
(注:1つの会社のみから年2,000万円以下の給与を受け取っている者で、給与以外の所得が20万円以下である場合等についてはそもそも確定申告が不要となります)
上場株式の配当金(大口株主除く)について
上場会社から株の配当を受け取った場合、
総合課税
申告分離課税
申告不要
のいずれかを選択し確定申告を行うこととなります。
さっそくの山なのでゆっくり見ていきましょう。
特定口座(源泉徴収有)なら申告不要!
そもそも株式の管理というのは一般口座と特定口座のいずれかで行い、特定口座の中にも源泉徴収有りのものと無しのものとがあります。
一般口座と特定口座の違いは 「特定口座年間取引報告書」の発行の有無のみです。
こちらも参考になさってください。
このうち源泉徴収有りの特定口座で管理する株式にかかる配当金については確定申告をしないでおくことができます。
源泉徴収有りの特定口座内で株式の配当を受け取ると、すでに20.315%相当額の税金の源泉徴収が済んでいます。手取り額で入金されるのはお給料と一緒ですね。
これでおしまいにすることができます。
この場合、申告の手間がかからないだけでなく、所得計算にこれらのもうけが含まれないこととなるため扶養や配偶者控除、国民健康保険料等への影響もなくなることになります。
デメリットとしては、確定申告を行わない場合、損益通算(株の売買の損失との相殺)や繰越控除(過去3年の株の売買の損失との相殺)ができませんのでその点だけ注意する必要があります。
総合課税と分離課税
一方、もし確定申告をするとなった場合には、総合課税か申告分離課税かのいずれか有利選択ということになります。
総合課税の場合、配当控除の適用がありますが、上で確認した申告をしない場合と同様譲渡損失との損益通算や繰越控除ができません。
また総合課税を選択される場合、所得税は累進課税(5~45%。所得が上がれば上がるほど税率が上がります)であるため、所得が大きく源泉徴収税率(20.315%)より高い税率で課税されることとなる場合(目安として課税所得900万円以上)、一般に不利となることがほとんどです。
一方分離課税での申告の場合、損益通算・繰越控除は可能となりますが、配当控除の適用はなくなります。
したがって株式の売却損の有無によって有利判定は大きく影響を受けます。
ちなみに税率は一律20.315%(うち地方税5%)となるので所得の多寡に影響を受けません。
少し複雑なので図にして見てみましょう。
非上場株式の配当金について
非上場株式とは一般に中小企業の自社株等が該当してくるのですが、こちらの配当については原則総合課税で申告ということになります。分離課税の適用はありません。
ただし配当金額が年相当額(※)10万円以下である場合、確定申告しなくていいですよ制度があります(申告することもできます)。
※ 配当額 × 配当計算期間の月数(1か月に満たない端数がある場合には、1か月として計算)÷ 12
したがって年10万円以下のケースですと申告するかしないかの選択をすることになりますが、課税所得が大きい場合申告不要を選択(分離課税はありません)したほうが有利なのは上場株と同様です。
NISAについて
NISAとは、NISA口座内で毎年一定金額の範囲内(年間120万円・総額600万円)で購入した株式ほか金融商品から得られる利益がすべて非課税となるとてもすてきな制度です。
非課税期間は最長5年。
NISA制度は、制度内で課税関係が完結するため確定申告も不要となっています。ラクチンですね。
したがって当然扶養や配偶者控除等にも影響を与えません。
ただし、損益通算や繰越控除の適用はいっさいありませんのでその点だけご留意ください。
まとめ・留意点
まず、ご自身が受け取ったのは上場会社からの配当金でしょうか、それとも非上場会社からの配当金でしょうか。
上場株の場合特に考慮しなくてはならないのは、
・ご自身の所得(総合課税の適用税率)
・当年及び前3年内の上場株式の譲渡損の有無
あたりでしたね。
上場株の譲渡損があり相殺をかけたい場合には申告分離課税を選択しましょう。
一方非上場株の場合には
・配当額
・(配当額が年10万円以下である場合には)ご自身の所得
を考慮にいれます。
お客さまに「いったいどちらが有利なんでしょうか?」と聞かれることも多いのですが、所得が突出している(もしくはとても少ない)、あるいは株の売却損がある、など、わかりやすい情報がない限り配当控除等との兼ね合いもあるため実際に試算をしてみないとわからないケースが多いです。
また、会社員等をされていて会社の社会保険に加入されている場合はよいのですが、自営業・フリーランス等で国民健康保険料や介護保険料等を支払っている場合、所得が上がると保険料も合わせて上がるため、これらへの影響も考慮しながら住民税の申告の有無を選択しなくてはなりません。
所得税額のみで有利選択を行い申告を行ったことにより、かえって支出が増えてしまった、というケースも十分考えられます。
NISA等の普及もあり近年投資ブームが再燃してきている感もありますが、複雑怪奇な税制に惑わされず冷静な判断で投資・申告判断を行いましょう。
株式の売却の際の取扱いについては、また機を改めます。
それでは、おつかれさまでした。
細川