今回は勤務時代に実際にあった、個人的に非常に思い出深い出来事についてお話ししたいと思います。
話自体はとてもとてもシンプルですが、僕個人の、税理士として望む方向性に大きな自信を与えてくれた一件でした。
『どうせまたすぐにいなくなるんでしょ?』
当時勤務していた会計事務所は非常にブラックで、3か月退社は当たり前、半年在籍で『すごいね』と褒め称えられるような環境でした。
そんな環境ですので、当然関与先からは『担当がコロコロ代わるやべー事務所』扱い。
僕も『どうせまたすぐにいなくなるんでしょ?』と何度言われたことか…。
今回お話しするA社からの目も例外ではありませんでした。
担当代わりますのごあいさつでお伺いした際も、そしてその後の毎月の巡回時も、社長及び役員たちは目も合わせてくれません。
話は最小限の事柄のみで非常に端的。吐き捨てるような口調でしかお話ししていただけません。名前すら呼んでもらえません。
あのう…僕の名前、知ってますか…?
もちろん僕も人間ですので気分はよくありませんでしたが、仕事ですので淡々とこなすほかありません。
それでもやっぱり、自分に落ち度のない責任を取らされている感がどうにもこうにも辛かった覚えがあります。
それでも、まずは話を
A社は当時新規事業を立ち上げ、利益こそ着実に取れていたものの資金繰りに大きな難を抱え、しかし社内で数字の管理や把握がまったくできておらず、原因の分析・追求ができず責任者(役員)は毎度ただただ『うーん』と首をかしげるのみでした。
数ヶ月経ったところで『さすがにまずい』状況に達したため、なんとか僕のことが嫌いな(笑)先方に無理やり時間をとっていただき、事業の中身について再度細かくヒアリングを行いました。
先方は嫌々ながらも、少し複雑な当該事業の仕組みや内情をお話してくれました。
結果、まずは数字をビジュアル化してお見せすることで、今A社で何が起こっているのか、利益は出ているのになぜお金がどんどこなくなっていくのかを把握・理解していただく必要があると感じました。
一枚のEXCELで伝える
あまり数字に強くない担当者にお出しする資料ですので、極力情報量を抑える必要があります。
A3用紙一枚のEXCELで伝えることを決めました。
記載内容は非常にシンプル。
・案件一件ごとの損益
・一件ごとの支払いと回収の進捗
・時点ごとの総キャッシュフロー
・平均支払期間と平均回収期間
これのみです。
特に資料としてフォーカスして伝えたかったのは支払期間と回収期間の差異が与えるキャッシュフローへの影響でしたので、簡易的なグラフも付しました。
A3用紙一枚に、見づらくないよう余白たっぷりに情報をまとめていきます。
伝わったのは数字のみではなく
結果。
その一枚のA3用紙をお渡ししたその日から、A社役員はみな僕の目を見るようになり、笑顔を見せるようになり、お茶が出てくるようになり、名前を読んでくれるようになりました。
よし、伝わった。
もちろん仕事としてまずお伝えしたかったのはA社事業の数字と現状ですが、それ以外のものもきちんと伝わったようです。
その瞬間はじめて僕は『担当がコロコロ代わるやべー事務所』の一スタッフという仮面が外れ、『細川 真』というひとりの税理士として認識してもらえたのです…。
僕の名前、知っててくれたんですね…。
最後に
結果として、一枚のEXCELで伝えるというミッションは大成功でした。
この仕事をしていてよく感じるのは、世の多くの中小企業関与先が会計事務所に求めているのは、何もスーパーテクニカルなスキームや本のように分厚い提案資料ではなく、ただただシンプルに『きちんとこちらを向いてくれているか』なのではないか、ということ。
ただただ利益や税金の計算だけで『はい、おしまい』ではやっぱり不足をしている、ということ。
大げさかもしれませんが、話自体は非常にシンプルでなんてことのないこの出来事は、それ以前から僕個人が感じていた『税理士観』に自信と勇気を与えてくれました。
『どれだけ寄り添えるか』で勝負しよう、と。
僕にとって悩み迷ったときに還るべき初心は今後もここにあるのだろうと思います。
おしまい。
***編集後記***
気づけばまたひとつ、歳をとってしまいました…笑
誕生日はカモメたちとお船デートしてきました!